地中図書館

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晴れた日には畑を耕し、雨の日には読書をする。「地中図書館」はそんな人のためにある。敷地は農業生産法人が運営するKURKKU FIELDSの中心にある。その平坦で乾いた土地は、建設残土で埋め立てられた谷の上にあった。われわれは、農夫たちがマザーポンドと呼ぶ池に至る、緑豊かな谷筋を復活させること、そして建築は作土層を占有するのではなく、植物と土中微生物たちの繁栄の下に慎ましく存在するべきだと考えた。大地はあらゆる生命の源、母性の象徴として捉えられてきた。その大地に割け目を設けて、耕す人の休息にふさわしい、やすらかな居場所をつくりたいと考えた。

傾斜地に谷筋と森を復活させ、その下に図書館を埋める計画とした。 photo

傾斜地に谷筋と森を復活させ、その下に図書館を埋める計画とした。

大地と一体化した、非オブジェクト的な建築を目指した。 photo

大地と一体化した、非オブジェクト的な建築を目指した。

小さな大地の隙間をくぐると、雫のような形をした中庭を囲うように本のコリドーが現れる。梁や柱といった建築的要素が排除され、外周部の土留め壁と袖壁からコンクリートボイドスラブが片持ちで跳ね出している。床と壁、天井は土仕上げでなめらかに繋がり、スラブ小口の鉛直面まで植え込まれた芝がモサモサと下垂し、空間に湿り気を与えている。これは灌水と保水のバランスを季節によって調節可能なディテールとなっている。

雫型の中庭を囲むように配置された本棚の隙間に、読書のための空間を設けた。壁裏は設備スペースとして活用し、壁内の結露を防ぐために空気の循環を確保している。 photo

雫型の中庭を囲むように配置された本棚の隙間に、読書のための空間を設けた。壁裏は設備スペースとして活用し、壁内の結露を防ぐために空気の循環を確保している。

屋根は厚さ300ミリのボイドスラブで、外周の土留め壁とそれに直交する壁だけで支えることで、訪問者に柱梁等の建築的な要素を感じさせない計画である。 photo

屋根は厚さ300ミリのボイドスラブで、外周の土留め壁とそれに直交する壁だけで支えることで、訪問者に柱梁等の建築的な要素を感じさせない計画である。

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大地の裂け目を奥に、一面の本棚が隠れている。 photo

大地の裂け目を奥に、一面の本棚が隠れている。

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傾斜地を切り抜いた本のコリドー。子どもがぎりぎり入ることができる天井高1.3mから先を内部とし、本棚にベンチ、ソファ、デスクを組み込んだ。 photo

傾斜地を切り抜いた本のコリドー。子どもがぎりぎり入ることができる天井高1.3mから先を内部とし、本棚にベンチ、ソファ、デスクを組み込んだ。

本を引き抜くと、本の世界に迷い込むような万華鏡が現れる本箱。 photo

本を引き抜くと、本の世界に迷い込むような万華鏡が現れる本箱。

5本の脚で支えあう、レシプロカル構造の特注スツール。 photo

5本の脚で支えあう、レシプロカル構造の特注スツール。

ピンホールカメラ状の天窓から空の表情を感じる。 photo

ピンホールカメラ状の天窓から空の表情を感じる。

カーテンを閉めると、本の上を刻々と美しい雲が流れてる。 photo

カーテンを閉めると、本の上を刻々と美しい雲が流れてる。

ときおり空を仰ぎながら天気を読み、自然と人の営みに思いを馳せる書斎。 photo

ときおり空を仰ぎながら天気を読み、自然と人の営みに思いを馳せる書斎。

万華鏡の効果を応用したトップライトにより、太陽や葉の動きを増幅させている。 photo

万華鏡の効果を応用したトップライトにより、太陽や葉の動きを増幅させている。

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内部の天井高は大地の傾斜に応じて決まるため、子どもにしか入ることのできない天井の低い場所や小さな隠れ部屋がある。 最深部には、読み聞かせのためのホールがある。芝の大地を大きく孕ませた子宮的空間には、階段状の席を本棚の襞が取り囲み、農園で働く人たちの蔵書や子どものための本が並ぶ。

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本棚の40mm厚の縦桟は、そのまま頭上に伸びて空間を支えている。細い縦桟は隣を支え、その縦桟はさらに隣に支えられることを繰り返すと、一周して初めて大きな空間が支えられる。相互扶助の連鎖の先に、強い個人だけでは到底成し得ない社会的空間が立ち上がるのだ。

横桟は円を描きながら上昇するように配置し、視線をトップライトに誘う。 photo

横桟は円を描きながら上昇するように配置し、視線をトップライトに誘う。

このレシプロカル構造は、プレカットした複雑な仕口を全て組み終わなければ構造として成立しないため、建て方は困難を極めた。 photo

このレシプロカル構造は、プレカットした複雑な仕口を全て組み終わなければ構造として成立しないため、建て方は困難を極めた。

トップライトは開閉式で、中庭側から取り入れた空気をトップライトから抜く、自然重力換気のエコシステムを持つ。 photo

トップライトは開閉式で、中庭側から取り入れた空気をトップライトから抜く、自然重力換気のエコシステムを持つ。

このKURKKU FIELDSの農村的共同体を象徴する架構中央のトップライトは、青い空と雲に包まれた地球のような光景を縁取る。大地と人間の叡智に包まれながら、地球を想う図書館である。

本のコリドーの照明は、引き出すと光量を調整できる本型照明のみで照らす計画とした。 photo

本のコリドーの照明は、引き出すと光量を調整できる本型照明のみで照らす計画とした。

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Completion
2022.04
Principal use
Library
Structure
RC+T
Site area
743.02㎡
Total floor area
113.09㎡
Building site
2503 Yana, Kisarazu, Chiba
Structure design
Kanebako Structural Engineers
Construction
SUMITOMO FORESTRY CO.,LTD.
Team
Soichiro Takai, Takumi Shido, Ayami Hisa