上勝ゼロ・ウェストセンター

 上勝町は徳島市内から車で1時間ほどの勝浦川上流域の山間に位置し、樫原の棚田(国の重要文化的景観・日本の棚田百選)や、巨石と苔の群生が神々しい山犬嶽など、美しい風景や豊かな自然を残している。標高100~800メートルの間に点在する大小55の集落には約800世帯1500人ほどが暮らし、高齢化率は50%以上と過疎が進む四国一小さい町である。町の総面積88%を占める山林のうち約80%がスギ等の人工林となっているが、主要産業であった林業は海外の安価な木材に押されて衰退している。その一方で季節の葉や花を新たな地域資源として見出し、料理をいろどる"つまもの"として出荷する「葉っぱビジネス」の町として知られる。高齢者や女性達が手先で扱える葉っぱによって雇用を生み出し、町民が生き生きとしたことで、後期高齢者の医療費は県内平均を大きく下回るなど、産業福祉の好循環を作り出した。また、2003年には日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、2018年にはSDGs未来都市の1つに選定された。

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 ゼロ・ウェイスト(Zero=0、Waste=廃棄物)とは、ごみをゼロにすることを目標に、可能な限り無駄や浪費、廃棄物を減らす活動のことである。一般にごみ関連政策のほとんどが、“ごみの対処”であるのに対して、ゼロ・ウェイストはごみ発生の根本から着手していく。ごみを出さない社会のためには、生産や流通、消費のシステムや社会全体が変わらなければならない。意識の高い仲間を増やし、そのネットワークを世界に広げていく必要もある。そこで、上勝町は豊かな自然や暮らしを守るために、ごみをゼロにする=そもそもごみ自体を出さない社会を目指し、2003年に自治体として日本で初めての「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った。その背景には、購入したばかりの小型焼却炉をダイオキシンの問題により処分せざるを得なくなり、新たな焼却炉に支出する財政的な余裕がないという切実な事情もあったという。そこで町民と話し合いを重ねた結果、生ごみはコンポストを利用して各家庭で堆肥化することや、その他のごみは住民各自が「ゴミステーション」に持ち寄ることになった。ごみの分別は9品目からはじまり、ゼロ・ウェイスト宣言開始時には34分別、現在は45分別になっており、再資源化率は80%を超えている。 豊かな自然と美しい風景の中で、細かく分類された資源ごみや、リユースショップの持ち帰り可能な品々が整然と陳列されている様には、大量生産、大量消費、大量廃棄の時代を超えた、新しい価値観や可能性を感じさせる町である。

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 「上勝ゼロ・ウェイストセンター」はごみ分別処理場に教育・研究・発信機能を付与し、「ゼロ・ウェイスト」の理念の体現と、町のコミュニティの再形成や、地域振興を目的とした環境配慮型複合施設である。

左からゴミステーション、ストックヤード、リペアヤード、リユースショップと、リサイクルの過程を一望できる。  photo

左からゴミステーション、ストックヤード、リペアヤード、リユースショップと、リサイクルの過程を一望できる。

敷地は、ごみや土木残土で埋立をした土地である。そこで建物は地盤の良い山側によせて建てる事とし、見通しの悪い迂曲した車道を避けて車の出入り口を配置した。出入り口を見通せる敷地中央に事務室とコンシェルジュ機能のあるリユースショップを設け、その両サイドに、町民とごみ関係者が主に使用する分別エリアと、町外の人も訪れるコミュニティ施設や駐車場エリアを配置した。また、最も地盤が安定している地山の上に体験型ホテルを分棟で配置した。 馬蹄状のプランは「分別→保管→再生・販売」といったリサイクルとリユースの過程をシームレスに連続させたもので、大庇が囲む円形の町民分別広場はストックヤードを一望できるドライブスルー型の空間となっており、45分別の検索性向上と移動距離の最短化を図った。午後はリサイクル回収のためのフォークリフトやトラックが行き来する場所となるため、観光視察の外来動線は建物外周部とし、歩車分離やごみを出す町民のプライバシーに配慮した。ごみ出し動線の先にはリユースショップやコミュニティホール、絶景の芝生広場へと繋がる出会いのホールがあり、そこで町民同士や外来者との交流が生まれることを意図した。

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ごみが隣に並んでも違和感のない、シームレスな建築を目指した。 photo

ごみが隣に並んでも違和感のない、シームレスな建築を目指した。

広場を囲う半屋外のストックヤードは45分別されたごみが資源として保管される。 photo

広場を囲う半屋外のストックヤードは45分別されたごみが資源として保管される。

かつてごみの野焼き、埋め立て場であったこの地に、上勝町の豊かな自然を守り、持続可能な未来のための施設が誕生した。 photo

かつてごみの野焼き、埋め立て場であったこの地に、上勝町の豊かな自然を守り、持続可能な未来のための施設が誕生した。

地域資源を活用すること。そして資源を無駄にせず、極力廃材を出さない工事とすること。域外から物を持ち込まないことは、無駄な梱包や輸送のためのコスト、燃料を減らす第一歩になる。設計に当たっては旧ゴミステーションだけでなく、町の廃屋や解体前の旧庁舎、廃校になった中学校などに足繁く通い、その苦境や過疎化の事実に愕然としながら、使われなくなったものに価値を与えられるよう知恵を絞った。建物に使われた素材はごみを資源と捉えて活用したものである。

リユースショップでは町民が不要となった物を持ち込むことができ、町内外の誰でも無料で持ち帰ることができる。さまざまなガラス瓶を300個束ね、シャンデリアとしている。 photo

リユースショップでは町民が不要となった物を持ち込むことができ、町内外の誰でも無料で持ち帰ることができる。さまざまなガラス瓶を300個束ね、シャンデリアとしている。

コミュニティホールは町民のためのラウンジや、企業研修の為のホールなどに使用される。放射状に貼られた色も形も異なるタイルは、様々な椅子が安定して乗るよう配置。 photo

コミュニティホールは町民のためのラウンジや、企業研修の為のホールなどに使用される。放射状に貼られた色も形も異なるタイルは、様々な椅子が安定して乗るよう配置。

町営のシイタケ工場の収穫かごを再利用したガラス方建ての座屈止めを兼ねた本棚。 photo

町営のシイタケ工場の収穫かごを再利用したガラス方建ての座屈止めを兼ねた本棚。

「ゼロ・ウェイスト」の理念のもと、上勝産のスギ材を構造や内装に使用する事を前提として、基本設計の初期から上勝町・森林組合・製材業者・木材加工業者を含めた打ち合わせを重ねた。町からはごみの臭いがこもらず、風と光が抜ける空間、大型のトラックが横付け出来る軒の高さが求められた。また、我々設計者としても、将来使われ方が変化しても改修して使い続けることができる、フレキシブルかつサスティナブルな構造システムを1つの設計条件とした。そこで、建築の構造は町の山林に最も多く眠っている立木径から末口径φ250㎜、70~80年生のスギを用いることとし、町内の設備で乾燥可能な8mを最長寸法として計画した。ただし、施工者の選定後に山から木を伐りだし、乾燥していては工期が間に合わない。そこで町と掛け合い、総数350本のスギを着工の1年以上前から先行分離発注し、町からの材料支給の形をとる事とした。山からの切り出し・製材・乾燥・加工をすべて町内の業者が行うことで、域内経済と山林資源の活性化に貢献している。 原木から角材をとるには、ごみの発生や構造耐力の低下、材長の短小化など、大きなロスがある。一方で、丸太材は製材せずにほぼ原木のまま使うことから、長い材が得やすく、断面性能のロスが少ないという力学的長所をもつ。ただし径や形状のばらつきや曲がりを有し、その加工・組立には高度な大工技能を必要とする問題がある。そこでこの建築は丸太の良さを活かした構造とすべく、丸太を半割にしただけの柱や陸梁で、太鼓引きした芯持材の斜め柱・登り梁を挟みこむ架構とし、各材のカット面をボルトで縫うシンプルな接合方法となっている。同時に、構造を現しとすることで、腐食材の交換などのメンテナンスや解体後のリユースが容易である。これは町の資源回収の大きな悩みの種となっている、解体分離が難しい複合ごみに対する、我々なりの答えでもある。また太鼓落としの端材を外壁や内装材として再利用する際、ごみの発生を抑制するために幅の異なる板材を許容して壁に割り付けている。

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トランスフォームする構造。左の路面には荷重を測るトラックスケールが埋められている。 photo

トランスフォームする構造。左の路面には荷重を測るトラックスケールが埋められている。

フォークリフトや車両が入りやすいよう、柱脚部が徐々にオフセットされている。 photo

フォークリフトや車両が入りやすいよう、柱脚部が徐々にオフセットされている。

町民が町の取り組みを誇りに思い、愛する施設を目指して、住民説明会や町の広報誌を通じ特定の廃棄物を募集した。その結果、人口1500人を割る町で約700枚の建具や廃材が集まった。 集まった建具は建物を特徴づけるパッチワークペアサッシとして利用した。その他、割れた食器の陶片は骨材として洗い出しの床に、箪笥や農機具等は展示什器やサインに、耐風圧を受けるサッシ方立の座屈止めに用いた農業用の収穫コンテナは書棚として活用した。消費を煽る新聞には「WHY」と活版印刷して消費社会を見直すメッセージを込めた壁紙に転用するなど、アップサイクルを意識してさまざまな廃材を創造的に組み合わせている。 なお廃材の使用に際しては、公共建築として一般的に求められる性能・品質保証、瑕疵責任の緩和を議会や役場に認めてもらった上で、町からの支給材という形をとった。町民・町役場の協力なしに、この建築は不可能であった。

人口1500人を割る町で集まった約700枚の建具で構成されたパッチ―ワーク窓。 photo

人口1500人を割る町で集まった約700枚の建具で構成されたパッチ―ワーク窓。

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このホテルは、ごみの分別の効率化・合理化から導き出された馬蹄形の平面をしたゼロ・ウェイストセンターの南側に、点を打つように円形プランとすることで、全体が「?」マークの建物配置となるよう意図している。これは先に命名された”WHY”という施設名と呼応し、「画竜点睛」のプランとなった。「?」マークは、はるか上空からでしか知覚できないが、この町が地球規模で私たちの暮らしを問い直していることや、ここを訪れた見学者たちに、自分の家に帰ってもなお、自らの暮らしのあちこちで疑問符を持ってもらえるようにとの願いを込めている。 中国の故事である「画竜点睛」は、寺の壁に書いた龍の目に瞳を入れると、龍にたちまち魂が入り、空へ飛んでいってしまうという話であるが、このホテルの中庭の床に設けた「上勝の川石で作った瞳」は、空を見上げて、世界へ飛び立つ時期を今か今かと待っている。 これは、徳島の山深い小さな町から、地球規模で世界や自然、私たちの現代社会を見つめる、「この町の人々の瞳」である。

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ホテル光庭。中央は上勝の川石を敷き詰めている。 photo

ホテル光庭。中央は上勝の川石を敷き詰めている。

新聞の消費広告に「WHY」を活版印刷した壁紙。 photo

新聞の消費広告に「WHY」を活版印刷した壁紙。

工事中に出た一塗料缶をベンチにリユースしている。 photo

工事中に出た一塗料缶をベンチにリユースしている。

ホテル客室。開口部、カーテンやベッド等、廃材を利用し設えている。 photo

ホテル客室。開口部、カーテンやベッド等、廃材を利用し設えている。

石鹸は自分で使う分だけ小分けする。 photo

石鹸は自分で使う分だけ小分けする。

宿泊中のごみで宿泊者自らが分別体験できる。 photo

宿泊中のごみで宿泊者自らが分別体験できる。

生ゴミはコンポストを利用して堆肥化。 photo

生ゴミはコンポストを利用して堆肥化。

現地に行くと、お年寄りが「私の家の窓だった、あれば中学校の机だよ。」と気さくに話しかけてくれる。さまざまな形をした窓が並んだ夜景を眺めていると、かつて明かりを灯していた家々の窓が再び集合しているかのようである。我々はこの建築が過疎化にあえぐ街を照らす希望の行灯となるよう願いを込めた。

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かつて明かりを灯していた家々の窓が集合して、過疎化にあえぐ町を照らす希望の行灯となるよう願いを込めた。 photo

かつて明かりを灯していた家々の窓が集合して、過疎化にあえぐ町を照らす希望の行灯となるよう願いを込めた。

Completion
Public Hall
Structure
Timber
Site area
5,557m2
Total floor area
1,176m2
Building site
7-2, Aza Shimoniura, Oaza Fukuhara, Kamikatsu-cho, Katsura-gun, Tokushima
Structure design
Yamada Noriaki Structural Design Office Co.,Ltd
Branding, Creative Production and Experience Design
TRANSIT GENERAL OFFICE
Contractor
Kitajima Corporation
Furniture design & Production
Wrap architect office
  • 2021年日本建築学会賞(作品)