火の山のツリーハット

旅するように暮らす自然をこよなく愛す建主夫婦は、いつも身軽で旅するように暮らしてきた。彼らは自然や地域と深い繋がりをもった最小限の空間があれば人生は十分だと考えており、その生活の実践のための小さな家の販売会社を立ち上げ、我々にモデルルームとなる第一号の家を依頼した。

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箱根の大噴火は約3000年前に神山の斜面で起きた水蒸気爆発で、芦ノ湖や大涌谷が形成された。大いなる存在への畏怖からか、古来より神山に火を捧げて山を鎮める祭礼(御神火祭)が行われてきた地域である。敷地は噴煙満ちる大涌谷から2kmほどの山中で、沢が流れる急峻な北傾斜の南角地である。この場所には大涌谷や神山が聳える南面に意識を向け、なおかつ冬季に暖かな日差しを取り込む窓が必要と考えたが、道路からの視線が問題だった。また、大地を這うように流れてくる硫化水素や湿気を含む重い空気を避けるためにも、約19㎡の建物を地表から5mほどの高さに浮遊させることで、世俗から離れた空間と大きな窓を可能にした。

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木々の間の僅かな空き地を見つけて、森に溶け込む直径15cmの無垢の鉄骨柱のフレームと階段を設置。その上に木造の小屋とミズキが貫通したデッキを載せ、夏は木陰、冬は落葉して日光を室内に取り込む環境装置とした。3本の柱は風が吹いたり自分が動いたりすると僅かに揺れるように設計。家の原型のひとつといわれる、樹上住居への遡行である。

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室内は狭くとも、自然との豊かな繋がりと地域の人びとの神山への想いを反映させるべく、中央の空間は神殿に似た形式とした。高窓から崇高な光が降りそそぐ4.9mの吹抜け空間を4本の柱で囲い、中心に特注の暖炉を設けて、大涌谷や神山に火を捧げる空間とした。シンメトリーに配置した北側の2本の枝付き丸太柱は鳥居のようで、向こうに神域があることを示している。部屋奥から眺めると、台形プランのパースが補正されて正方形の空間が現れ、そこに護摩焚きや御神火神事に相当する拝火台が鎮座する。

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中国の陶淵明や白楽天の隠棲から連なる、西行、鴨長明、芭蕉、良寛と続く方丈(3m四方)の草庵に住まう感性とは何か。彼らはかつて旅人で、場所やモノを所有することに執着しなかった。そういえば、この建築はトーベ・ヤンソンのムーミン谷を訪れるスナフキンの帽子のような小屋であるが、彼もまた永遠の吟遊詩人である。これは自然に対する繊細な感受性と信仰に似た謙虚さの中で、質素な生活を送ることの「豊かさ」についての試行である。

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Photo by Koji Fujii / TOREAL

Completion
2020.10
Principal use
Residence/Model House
Structure
T+S
Constructor
Double Box
Site area
999㎡
Total floor area
19㎡
Building site
Kanagawa
Structure design
yAt Structural Design Office inc.
Produce
TRANSIT GENERAL OFFICE INC.