上野東照宮神符授与所/静心所

上野東照宮社殿に至る回廊型の奥参道と、樹齢600年超の御神木を中心とした祈りの庭の設計である。 1627年創建の上野東照宮は、江戸城の鬼門の方位にある上野の台地に鎮座し、徳川家康公(東照大権現)を神としてお祀りする神社である。豪華絢爛な権現造の社殿は、幕末の上野戦争や関東大震災、第二次世界大戦の空襲を奇跡的に免れ、今も変わらぬ姿で参拝者に安らぎを与えている。 計画にあたっては、御神木の根に負荷をかけていた動線を見直し、周囲を伊勢五郎太石敷きで清めた聖域としての庭園と回廊型の参道を整備した。道中にかけられた2枚の片流れ屋根の建築のうち、ひとつは拝殿形式の「神符授与所」、もうひとつは拝観前に御神木と対面して心を清め落ち着かせる「静心所」である。

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神符授与所では、初穂料を納めお守りや御朱印といった神符を授与されることも一つの祈りの行為と位置づけた。 巫女の背景となる大きな窓からは、社殿を囲う二重菱格子の透塀と奥参道を臨むことができる。社殿で清められた神符が巫女によって運ばれ、ここで授与されるという儀式性を空間に込めている。

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神符授与所より御神木が鎮座する庭を見る。 photo

神符授与所より御神木が鎮座する庭を見る。

社殿を囲む二重菱格子の透塀 photo

社殿を囲む二重菱格子の透塀

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屋根は透塀の結界性を踏襲して、その下が神聖な空間となるように意図した二重菱格子構造である。垂木の一方の軸を社殿と日光東照宮を結ぶ真北方向に、もう一つの軸を久能山東照宮のある駿府に振っている。そのため内部からは、徳川家康公が一周忌を経て久能山から不死の山富士山を越え、江戸は真北の空に輝く北極星が指し示す日光に勧請されたという、家康公が神(東照大権現)になる過程をダイナミックに追体験できる。ここは、巨大都市東京の創造主が青年期と晩年期を過ごし、今は墓所に眠る「駿府」と、神として鎮座する「日光」への遥拝所でもある。

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透塀と屋根架構が連続するように、鼻隠しの下端を透塀の二重菱格子の上端に揃えている。屋根は妻側にも1.95mの軒の出を可能にしている。 photo

透塀と屋根架構が連続するように、鼻隠しの下端を透塀の二重菱格子の上端に揃えている。屋根は妻側にも1.95mの軒の出を可能にしている。

ポリカーボネート板の面戸は、押縁が見えない納まりとすることで、二重菱格子の架構を強調し、浮遊感のある屋根とした。 photo

ポリカーボネート板の面戸は、押縁が見えない納まりとすることで、二重菱格子の架構を強調し、浮遊感のある屋根とした。

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静心所の屋根架構材は、この場所で長らく防火樹として社殿を守ってきたが倒木のおそれがあるためにやむなく伐採された大イチョウである。我々は枝葉を広げたような屋根としてイチョウを蘇らせようと考えた。ただし腐朽による空洞化が著しく長径材が量的に確保できないため、最小断面60mm角に乾燥した製材を用いて屋根を構成した。シェル構造によって剛性を高めた長さ3mの軒を支点からはねだし、反対側をやじろべえのように引っ張ることで、御神木側に柱が一切落ちない空間とした。

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座する一人ひとりの頭上を包み込むヴォールト屋根は、意識を自己へと向けさせ、社殿を敬うようにこうべを垂れる軒先は、瞑想時の半眼や祈りを導くだろう。

イチョウのヴォールト屋根はご神木の葉擦れや鳥のさえずりに包まれる音空間を形成している。 photo

イチョウのヴォールト屋根はご神木の葉擦れや鳥のさえずりに包まれる音空間を形成している。

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先端を直線にそろえた軒が江戸時代から変わらない風景を切り取る。 photo

先端を直線にそろえた軒が江戸時代から変わらない風景を切り取る。

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振り返ると、壁のスリットから芽吹き始めた大イチョウの切り株が目に入る計画となっている。

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Completion
2022. 03
Principal use
Shrine Amulet Place of Conferment
Structure
T+S
Site area
2,344㎡
Total floor area
187㎡
Building site
9-88 Ueno Koen, Taito-ku, Tokyo
Structure design
Yamada Noriaki Structural Design Office Co.,Ltd
Construction
AOKI KOMUTEN Co.,Ltd
Team
Soichiro Takai, Sadaharu Aoto, Makoto Ochi